COLUMN

ボウイ展 キュレーション秘話〜その4 HEROESの歌詞は何度も書き直してある。

V&Aのキュレーター、ヴィッキーとジェフリーの二人が来日時に語ってくれたボウイ展のディープな話を、通訳を務めたお二人の協力を得て改めてまとめたキュレーション秘話。ボリュームたっぷり、4回連載の最終回をお届けします!

 

ベルリン時代のセクション

 

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(ボウイが1977年に描いた三島由紀夫の肖像画「Head of Mishima」 Courtesy of The David Bowie Archive)

 

ベルリンで生活し、通称“ベルリン3部作”を制作した時期にフォーカスしたセクションは、ブラック&ホワイトでまとめたヴィジュアル演出においても、他と一線を画したムードを湛えている。東京会場には特別に、1987年の『グラス・スパイダー』ツアー中に、まだ壁に隔てられていたベルリンで公演した時の映像も展示され、壁崩壊に至るプロセスにボウイの音楽が与えた影響に言及している。

 

ヴィクトリア 「アメリカでスターダムに上り詰めたものの、燃え尽き症候群に陥り、精神的に落ち込んでいたボウイ。そんな彼が向かった先がベルリンでした。街を歩いていても人に煩わされることなく、普通の生活を送れるようになり、自分を取り戻すために絵を描き始めます。会場にはボウイが描いた三島由紀夫やイギー・ポップの肖像画のほか、ブライアン・イーノが彼にプレゼントしたEMS社のシンセサイザーが展示されていますが、どんなに技術が進んでもこの音を出せる機材はほかにないと、イーノは言っています」

 

ジェフリー 「彼はあのシンセを一度手放して、それを買い取った人からわざわざ買い戻して、誕生日プレゼントとしてボウイにあげたとか。僕はそもそも、それまでの活動に一旦区切りを付けて、美術など音楽以外の表現から影響を受けて音楽を作り始めたこの時代のボウイが大好きで、個人的に一番好きな展示物もここにあります。『ヒーローズ』の手書きの歌詞なんですが、悩みながら何度も書き直した形跡が窺えるんですよね」

 

 

東京会場の独自企画

 

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ボウイ展には、巡回先でそれぞれ独自の展示が加えられてきたが、東京ではご存知の通り、ボウイが主演した映画『戦場のメリークリスマス』(1983年)をフィーチャー。共演者の坂本龍一・北野武両氏が彼の思い出を振り返る、撮り下ろしインタヴューを見ることができる。

 

ヴィクトリア 「独自の企画をするにあたって、日本とボウイにまつわる、様々な展示のアプローチがあったかと思います。でも、色んな品々を並べるのではなく、こういう非常にシンプルな形をとり、1本の映画に焦点を絞った。そうすることで、彼と日本の深い関係をより明確に浮き彫りにしています。また、坂本氏にしろ北野氏にしろ、いいお話を聴かせて下さっているので、素晴らしい展示になったんじゃないでしょうか」

 

ジェフリー 「この映画に出演した頃のボウイの状況を振り返ってみると、彼は1980~1981年にブロードウェイで『エレファント・マン』の舞台に立ち、主役ジョン・メリックを演じていました。その最中にジョン・レノンが亡くなり、彼に大きな衝撃を与えます。単に友人を失ったのみならず、アーティストが暗殺の標的になるという恐怖を実感したわけですから。それに30代半ばに差し掛かって、ポップ・ミュージックの世界では、そろそろ排除されてゆく年齢になっていました。でもボウイは挫けることなくメリック役を予定通りに務め上げ、次に、世界の歴史において非常にダークな時期に目を向けた『戦場のメリークリスマス』に出演。困難なシチュエイションで人間が抱く複雑な感情を掘り下げて、素晴らしい映画を作り上げました。結果的にはこの映画を介して、俳優という新しい活動領域を本格的に切り拓くことになるんです」

 

ヴィクトリア 「実は東京は、私たち自身が、ロンドン以外で最初にこの展覧会を行ないたかった場所でした。それだけに、こうして実現したのは本当に喜ばしいことです」

 

ジェフリー 「どこの会場でも大成功を収めたので、東京でもそうなることを願っていますが、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館でボウイ展がスタートしてからの約4年間を振り返った時、3つのことが印象に残っています。まず年配の人々にとって、人生の様々な場面でボウイの作品がいかに大きな役目を果たしたかを思い知らされました。彼の曲は単に有名なミュージシャンの音楽だというのではなく、聴き手にとって非常に重要な意味を持ち、深く記憶に刻まれています。2点目としては、それほどボウイについて詳しくない若い世代が、今まさにこの偉大な人物の存在を知って、掘り下げていることを実感しました。50年前にキャリアをスタートした彼は、この間に世界に訪れた大きな変化と共に活動を続けてきましたが、その人がどこで暮らしていようと、それぞれの社会において、それぞれが体験した変化が、作品に映し出されているんです。そして最後に、開催地がどこだろうと展覧会を訪れた人みんなに、ボウイのメッセージは伝わっているということですね。自分の頭の中を覗きこんで、独自の世界観を見出し、自分の夢を追う――というメッセージが」

 

ヴィクトリア 「本展の見どころは、ボウイの哲学そのものだとも言えると思います。つまり、心を開いて、多様な生き方や異文化を受け入れて、型にはまらないという姿勢ですね。これは、現在の社会では揺らいでしまっている価値観であり、そういう意味で彼は、これまでにも増して重要なインスピレーション源なのではないでしょうか」

 

写真: Shintaro Yamanaka(Qsyum!)

 

秘話その1: デヴィッド・ボウイ・アーカイブでは、衣装はきれいに折りたたまれていた。

秘話その2: “Kon-rads“のハイフンにみせたボウイのこだわり

秘話その3: ボウイのウエストは驚愕の67.5cm!でも腿は筋肉質で太かった。