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“DAVID BOWIE is”〜展覧会タイトルと「ism」の誕生秘話

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単にキャリアをなぞるのではなく、多角的にデヴィッド・ボウイを解き明かすというアプローチを見事に凝縮したボウイ展のタイトルは、どのようにして生まれたのか。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)のキュレーター、ヴィクトリア・ブロークスによると、ボウイのアーカイヴの関係者とも話し合いながら、“Planned Accidents”(アルバム『ロジャー』の仮題)を始め多数の候補をじっくり検討した末に、“DAVID BOWIE is”に行き着いたという。

 

これを提案したのは、ボウイ展にアドバイザーとして関わったポール・モーリー。“ボウイ論”の第一人者として知られる、『NME』誌出身の音楽ジャーナリスト/小説家で、1980年代にはトレヴァー・ホーンらとZTTレーベルを主宰し、アート・オブ・ノイズの一員としてミュージシャン活動もしていた人物である。「“Planned Accidents”も有力な候補でした。“計画されたアクシデント”の積み重ねによって進化し、ボウイが偉大なスターになったという経緯は、非常に重要なコンセプトですから。ただ、表現として一般的にやや理解し難いように思われた。そういう意味で“DAVID BOWIE is”の素晴らしさは、ボウイに関する様々な疑問に対して、人々がそれぞれの解釈で与えるであろう、あらゆる回答を包含できる許容量なんです。そしてさらに、ボウイを現在進行形で捉えるタイトルであることが、究極的には決定的な理由になりました」とヴィクトリアは話す。つまり“DAVID BOWIE is”は展覧会だけでなく、変幻自在で定義付けできないボウイ自身にも相応しい表現なのだ。

 

そして、そんな絶妙なタイトルの延長上に生まれたのが「ISM」。彼の言動や作品や生い立ちに因んだ言葉を“is”のあとにプラスして、ボウイを様々なアングルで描写するフレーズ集である。インタヴューでの発言に基づいた「David Bowie is needing to be something more than human(デヴィッド・ボウイは人間以上の存在になる必要性を感じている)」から、彼の生き方に言及する「David Bowie is ahead of himself(デヴィッド・ボウイは自分を追い越している)」まで、ボウイ展がV&Aで開催された際にまずは100余りが用意され、約30が会場の随所に掲げられたほか、プロモーション・ツールとしても広く活用された。

 

実はこれらも元々ポールが考案したもので、さる8月に出版した評伝『THE AGE OF BOWIE』の中で彼は、「ボウイ展とそのマーケティングに使うために、私がボウイのアブストラクトな概要として綴った、コンセプチュアルなキット兼コンクレート・ポエム兼マニフェスト」と、「ISM」の位置付けを説明(ここで言う“コンクレート”とは具体音で構築されたミュジーク・コンクレートのそれに近いニュアンスだと思われる)。一見したところ軽いキャッチコピーのようでいて、ひとつひとつ示唆とウィットに富んでおり、ボウイへの造詣の深さを物語っている。

 

その後パリやベルリンに巡回した際には、それぞれ開催地に因んだ「ISM」が少しずつ加えられたが、ここにきてV&A公認の、日本だけの「ISM」の数々が誕生。当然ながら、『ジギー・スターダスト』の歌詞を引用する“David Bowie is like some cat from Japan(デヴィッド・ボウイは日本からやって来たヤツに似ている)”、或いは“David Bowie is where east meets west(デヴィッド・ボウイは東西の交差点である)”と言った具合に、日本とボウイの絆に言及するフレーズが多く、日本のファンならばどれも「なるほど」と頷けるのではないいかと思う。今後開催が近づくにつれて、新旧の「ISM」が続々SMSを通じて発信される予定で、巷で目にする機会も増えるはずだ。ちなみにポールは『THE AGE OF BOWIE』でほかにも多数のフレーズを挙げており、展覧会に足を運べばきっと、各人それぞれに新たな「ISM」を思い付くに違いない。

 

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