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どこの誰でも、「意思」さえあれば、何者かになれる〜ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館のキュレーター二人が語るボウイ展の魅力

今回の「ボウイ展」のキュレーターは英ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)のヴィクトリア・ブロークス(シアター&パフォーマンス部門長)と、ジェフリー・マーシュ(同部門ディレクター)の両氏だ。アート全般、工芸、デザインなど多岐に渡る膨大なコレクションを持つV&Aは、1852年にロンドンに開設され、英国のアート/デザイン界をリードする世界最大規模のミュージアムである。近年は現代ポップ・カルチャーに関する意欲的な展示も行っており、今回のボウイ展も、そのひとつに位置づけられるものだ。

 

 

「デヴィッド・ボウイは単独テーマの展覧会で取り上げたいと考えていた最終候補リストの筆頭でした。私たちはアート、デザイン、パフォーマンスの博物館です。ボウイは50~60年以上もの間、作品を通じて、その3つすべてを融合させてきました。一個人を対象とした展覧会の中でもこのような豊かなコレクションを提供できるということで、まさに類い希な存在なのです」(ヴィクトリア)

 

展示品の多くは、ボウイ自身が所有・管理するデヴィッド・ボウイ・アーカイヴに保管されていたものだ。彼らはボウイ自身の許可を得て、そのアーカイヴから、展示のテーマに沿った品々を自由に選ぶことができた。展示の内容や方向性については、ボウイはV&Aを信頼し、すべてを任せてくれたという。

 

「このアーカイヴの類い希なところは、歌詞のメモや写真といったもののほかに、たとえば『ダイアモンドの犬』ツアーの舞台全体のデザインをスケッチしたような絵も存在していたということです。通常そういう素材はあまり残っていないか、ただ消えてしまったりしますから。そしてそういうものをパフォーマンス用の衣装、実際に使われたセットの模型などと組み合わせて、クリエイティヴなプロセスのストーリーを作ろうというのが私たちの狙いでした。ボウイの頭頂部を切り取って、そこから心の中を少し覗けるようにする感じですね。時系列では展示したくありませんでした。彼のクリエイティヴィティを理解したい。彼のアイデアがどのようにレコードとして形になったかを、レコードの音楽だけでなく、ジャケットのデザイン、マーケティング、ライヴ・パフォーマンスも合わせて、線で表したいと思いました」(ジェフリー)

 

彼らがこのボウイ展で最も伝えたかったことはなんだろうか。

 

「この博物館の役割のひとつは、すべての世代、中でも学齢期にある子供たちのクリエイティヴィティを促進するということです。デヴィッドはごく普通の家庭の出身です。彼の両親は全くお金を持っていませんでした。彼はいい学校の出でもありません。学校を16歳で離れたので何の資格も持っていませんでした。でも子供時代からひたすら、成功への断固とした決意を持っていたのです。必ずしもヴァイオリンを見事に弾きこなしたり、裕福な両親がいたりしなくてもいい、望めば、十分に明確な意志があれば成功できることを、当館の来場者たちに教えてくれます。そして来場した本当にたくさんの生徒さんたちが、それを実感しているのを私たちは目の当たりにしました。彼にできるなら、私にもできるとね」(ジェフリー)

 

変容を重ねた類いまれなアーティスト・ボウイ。ファッションもヴィジュアルも音楽も時代の変移とともに古びていってしまう例がほとんどなのに、ボウイの遺産は古びることがない。なぜだろうか?

 

「ボウイの再解釈が絶えず行われているからでしょうね。昨夜も何人かと話していたのですが、彼が亡くなって以来、彼らの子供たちはずっとボウイを聴いているのだそうです。ボウイは彼らによって新たに再認識されたのだと思います。彼が音楽的、そしてヴィジュアル的にもこれほど豊かな作品群を生み出したおかげで、今後も何十年にもわたって、私たちはそういう光景を見続けることになるでしょうね」(ヴィクトリア)

 

「ボウイ展」は、V&Aのボウイに関する独自の解釈を展示するというより、彼が何を成し遂げたのかという事実を丁寧に、丹念に見せている。逆に言えば「この展覧会をどう解釈するかはあなたの自由ですよ」と観客に投げかけているようにも思える。

 

「その通りです。展示会がおのずとそれを伝えていることがとても嬉しいです。というのも、それこそが私たちが非常に、非常に強く思っていたことでしたから。私たちはボウイのことを何も知らない人々から、私たちよりもよく、ボウイのことなら何でも知っているような人々までを満足させなければなりません。人々が展示を見ながらそれぞれのボウイのストーリーを持ってくれればいい。この展覧会がそのようなインパクトを与えられることを心から望んでいましたから」(ヴィクトリア)

 

Photo Credit :© Hayley Madden

インタビュー:小野島大 (2016年8月ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館にて)